1600-1700年代の歴代マルセイユタロットの絵師と変容
山川出版社『タロットの歴史』より1500-1700年代のタロット史と世界と日本の主なできごと
マルセイユ・タロットと言えば版画のタロットですので、ここでの絵師とは画家でも、また彫刻家でもあったりするアーティスト、フランスにおいては当時カルティエと呼ばれた人たちとなるのでしょうが、この時代にはすでに、カルティエとメイカー=作者・版元・エディターらが混雑していました。
参考: 国書刊行会『マルセイユ・タロット教室』
- そもそもマルセイユタロットとは?
1643-1664年ジャック・ヴィエヴルのマルセイユ版
親方名:ジャック・ヴィヴル(Jacques Viéville)
- 制作時期:推定1643-1664年
- 場所:パリ郊外
- 特徴 詳細
マルセイユ版とは言い切れない、マルセイユ版の亜種とも言われている。後半の大アルカナが大アルカナの絵柄のほぼ半数が、マルセイユ版のスタンダードとは異なるデザインになっています。パリの都市部で豊かな市民を顧客としていたノブレに対して、パリのはずれの田舎地帯にいたヴィヴルのタロットは非常に対照的に紹介されています。版木の特殊な使用の仕方により、スタンダードなマルセイユ版とは「左右もしくは上下反転」現象が起こっているのがユニークな特徴。さらなる情報収集中。今後の動向から目が離せません。
1659年ジーン・ノブレのマルセイユ版

親方名:ジーン・ノブレ(Jean Noblet)
Jean Noblet→ ジャン・ノブレとも
- 制作時期:1659年
- 場所:仏、パリ
- 特徴:サイズが小ぶり、皇帝が左向き、水色は聖母マリアの色。詳細
1659年の原版がフランス国立図書館に保存されています。このノブレだけがカルティエ(彫刻家)とメイカー(販売元)を兼任していた唯一の存在であるとも伝わっています。「魔術師」はストレートヘア、「恋」のキューピッドはめかくしをしていて、「月」は正面を向いており、ザリガニの彩色は見事です。
1701年ジーン・ドダルのマルセイユ版


親方名:ジーン・ドダル(Jean Dodal)
- 制作時期:1701 -1715年
- 場所:仏、リヨン
- 特徴:詳細
「魔術師」はストレートヘア、「恋」のキューピッドはめかくしをしていて表情がわからず、「月」は正面を向いています。
1709年ピエール・マドニエのマルセイユ版
親方名:ピエール・マドニエ(Pierre Madenie)
- 制作時期:推定1709年
- 場所:仏・ディジョン
- 特徴
「魔術師」のヘアスタイルが巻き髪、まさに現代人にとっても「マルセイユ版」の元祖ともいえるイメージです。「恋」のキューピッドは赤子の表情をした天使のようで、「月」に描かれた顔は横向きになっています。
1718年フランソワ・エリのマルセイユ版
親方名:ソフランソワ・エリ(François Heri)
- 制作時期:1718年
- 場所:スイス
- 特徴
「魔術師」のヘアスタイルが巻き髪、「恋」のキューピッドは赤子の表情をした天使のようで、「月」に描かれた顔は横向きになっています。
「愚者」の帽子も含め頭部全体が版画枠の中におさめるようにして絵札を完成させているのは知る限りこの親方の作品のみです。描かれている人物の表情も通して柔和なのが特徴的です。当サイトショッピングコーナーにてお買い求めいただけます。
1751年クラウド・バーデルのマルセイユ版
スカラベオ社製復刻バーデル版 こちらの復刻版はショッピングコーナーからお買い求めいただけます。
親方名:クラウド・バーデル(Claude Burdel)
もしくはクロード・ビューデル
- 時期 1751年
- 場所 スイス
- 特徴
「魔術師」のヘアスタイルが巻き髪、「恋」のキューピッドは赤子の表情をした天使のようで、「月」に描かれた顔は横向きになっています。美術館所蔵の原版ではザリガニが不明瞭になっています。実践にはカラフルに復刻されたスカラベオ社製品を活用するのがおススメ!
1760年ニコラス・コンバーのマルセイユ版
親方名:ニコラス・コンバー(Nicolas Conver /1784-1833)
- 制作時期:推定1760年
- 場所:地中海沿岸から広範囲に及ぶ
- 特徴:「魔術師」のヘアスタイルが巻き髪、「恋」のキューピッドは赤子の表情をした天使のようで、「月」に描かれた顔は横向きで、ザリガニが水辺と同化して不明瞭になっています。
推定1760年の仏・マルセイユのニコラス・コンバー(Nicolas Conver)による作品は、これまで各地で生み出されてきたタロットの集大成として刊行当初ブームになったことが伝えられています。以来この系統のタロットが「Tarot of Marseille/マルセイユ版」と呼ばれるようになったという革命的なデッキです。コンバー版は今日一種のレジェンドとみなされ、厚いファン層による支持を得ています。
フランス国立図書館所蔵の作品情報
ポール・マルトー・コレクションのコーナー、カタログ・レコード:「http://catalogue.bnf.fr/ark:/12148/cb40918777p」
絵札のサイズは 12,1 x 6,3 cm。クリエイターとして「Conver, Nicolas (1784-1833)」の名が挙げられていますが、掲載情報が1784年生まれの親方ということで、代々受け継がれてきた親方名というものを考えると、もっと早い時期の親方がいたはずでしょう。ジーンとジャック、ドダル、バーデル等々も皆本名ではありません。親方として引継ぎ継がれた襲名という伝統も、興味深いところです。
この作品自体はおおよそ、1890-1900年代のもので、他にも同年代の2つの同名作品が、つまり3つのバージョンのニコラス・コンバー版が所蔵されています。
3つのバージョンのニコラス・コンバー版
画像は細部にわたって違いがあり、ぜひフランス国立図書館サイトで全画像をご覧になってみていただければと。ザリガニがついに線画になってしまいましたが。。どういう意図なのでしょう? これだけ他の部分にこだわりを発揮している絵師において。
とくにこちらのヴァージョンは手書きのメモのようなものの見られるなど、まだ作りかけのものなのか? 未発表作品であったりするような形跡があり、ここに掲載させていただいております。
フランス国立美術館のスクリーンショット 1800年代の版画です。すでに1760年頃に出回っていたとされるマルセイユ・タロット「月」の一部。
当時の絵師のパワーを感じて!